新茶の季節 八十八夜

みなさんは、「夏も近づく八十八夜」と始まる、『茶摘』の歌を聞いたことはありますか。
この歌は、宇治や奈良の茶摘み歌をもとにメロディーをつけて、文部省唱歌として発表されたものです。
今でも音楽の教科書に載っていたりするため、知っている方も多いと思います。
今回は、この歌の歌詞にも登場している「八十八夜」とはどのようなものなのか紹介します。
八十八夜は立春から数えて88日目の日のことで、毎年5月2日ごろです。
今年(2025年)は、5月1日が八十八夜にあたります。
八十八夜を過ぎると初夏の気候となり、茶畑では茶摘みが始まります。
茶摘みだけでなく、稲の種まき適した時期の目安ともなり、お茶や稲作の豊作を祈る日としても親しまれてきました。
また、春先には寒冷な移動性高気圧が日本列島を通過するようになり、摘み取る直前の一番茶の葉が凍霜害という低温障害を受けることがあるそうです。
八十八夜を過ぎると霜の心配がなくなり、やっと安心できるということで、「八十八夜の別れ霜」という言葉もあります。
八十八夜は雑節の一つで、日本では重要な節目の日となっています。
雑節とは、中国で作られた二十四節気に加えて、季節の変化をつかむための目安として日本で作られた暦です。

そんな、八十八夜の時期に摘み取られた新茶は縁起物となっています。
この新茶を飲むと長生きするともいわれているそうです。
さらに、茶葉に含まれる栄養成分の含有量は八十八夜のころに最も豊富であるということが分かっています。
八十八夜のころに摘まれる、一番茶は長い休眠期間を経てから萌芽します。
そして春のやわらかい日差しを浴びてゆっくりと育つため、二番茶や三番茶と比べて、アミノ酸類が多く、タンニンが少なくなるそうです。
お茶はうまみが強く、苦みや渋みが穏やかなものになります。
一番茶は春の陽をたくさんため込んでいるのですね。
八十八夜は日本にとって大切な節目の日です。
みなさんも茶摘みの風景を思い浮かべながら、新茶を飲んでみてはいかがでしょうか。

唱歌『茶摘』
夏も近づく八十八夜
野にも山にも若葉が茂る
あれに見えるは茶摘みじゃないか
あかねだすきに菅の笠
日和続きの今日この頃を
心のどこかに摘みつつ歌う
摘めよ摘め摘め摘まねばならぬ
摘まにゃ日本の茶にならぬ
(日本茶検定委員会監修、改訂版 日本茶のすべてがわかる本、2023年 より)