抹茶不足からの気づき—世界の茶文化の潮流を見据えて

近年、抹茶ラテやケーキなどの抹茶加工品が海外でブームになり、古くからの茶文化の象徴だった抹茶がカフェ文化の人気者になりました。
世界中の需要は急激に膨らみ、2024年の日本の緑茶輸出額は364億円に達して前年比25%増、輸出量も16%増で過去最高となり、10年前の3倍以上に膨らみました。
輸出の4割超は米国向けで、欧州や東南アジアでも抹茶入り飲料が定着しています。
大量消費を背景に、日本国内では抹茶不足が起こり、茶道関係者の間でも、高品質な抹茶の確保が難しくなってきているという声が広がっており、その影響が懸念されつつあります。
こうした状況をデータとともに振り返り、玉露や煎茶、しいては煎茶道への波及を考えてみます。
世界的需要と供給のギャップ
抹茶は碾茶(てんちゃ)と呼ばれる日陰栽培の茶葉を石臼で粉末にしたもので、春の一番茶から作られます。
この碾茶の生産量は近年急増し、2023年には4176トンと、緑茶生葉の生産量全体の5.6%を占めるまでになりました。
しかし新たな茶畑を開墾し、良質な抹茶を供給できるまでには5年以上を要し、需給のバランスが崩れています。
また、全国的な高温や少雨の影響により、収穫量にも打撃が出ています。
さらに農家の高齢化や人手不足も加わり、長期的な安定供給が懸念されています。
こうした状況を受け、国内では煎茶や玉露用の茶葉を抹茶原料のてん茶に転換する動きが加速しており、これにより高級茶である玉露や上級煎茶の供給が減少する恐れも出てきました。
味覚の変化と文化への波及
一昔前まで、外国人の多くは抹茶の渋みや苦味に対して抵抗がありました。
しかし、スイーツやラテといった加工品を通じて親しむうちに、その味覚に慣れ、むしろ品質の高い抹茶の味わいや香りを求めるようになりました。

このように味覚が進化していく過程で、次に注目されるのが日本茶の最高峰である「玉露(ぎょくろ)」です。
抹茶よりもさらに甘みと旨みが濃厚で、口あたりもまろやかな玉露は、海外の洗練された茶愛好家にとって新たな魅力となりつつあります。
現に、2025年にかけてヨーロッパや北米では、玉露の専門販売や試飲イベントが増えており、今後の需要拡大が見込まれます。

玉露に興味を持つということは、自然とその淹れ方や飲み方にも関心が及びます。
煎茶道においては、湯冷ましや適温抽出などを通じて、茶葉が持つ本来の味を最大限に引き出す所作が重んじられています。
また、点前や道具の扱いを通じて、相手への敬意や静寂を大切にする精神性にも触れることになります。
つまり、抹茶ブームを契機に外国の方々が玉露の魅力にも気づき、そこから煎茶文化への関心が広がっていく兆しがあるのです。
既にここ1.2年で海外からの入門問い合わせが増え、門下生として煎茶道の勉強を始めている教室が多くあります。

煎茶道の未来に向けて
現在は「抹茶ブーム」による供給逼迫という一見マイナスの状況にも思えますが、視点を変えれば、これは煎茶や玉露といった他の日本茶への関心を促す好機とも言えます。
事実、煎茶道では日本の四季や自然を感じ取り、日常の中で静けさと調和を尊ぶ文化が根付いています。
外国人にとって、日本茶は単なる飲料としての茶ではなく、精神文化に触れる入り口としての価値があるのです。
今後、煎茶道の教室や体験イベントを通じて、玉露の淹れ方や飲み方だけでなく、日本人の美意識や「間」の感覚、禅茶の精神などを伝えていくことが、日本の茶文化として大きな意義を持つことでしょう。

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